引き抜き行為は違法でしょうか?

先日、以下のご相談をお受けしました。「退職を予定している社員が、引き抜き行為を行っています。止めることはできますか?罰則は可能でしょうか?」引き抜きとは、他の会社から優秀だと思った人材をより良い条件を提示するなどしてスカウトし、自社に転職させることです。では、引き抜きが多く行われる理由は何でしょうか?おそらく、教育コスト削減のためです。優秀な人材を育てるというのは簡単なことではなく、0から育てるのはコストがかかります。さらに、教育によって動ける人材も時間を取られます。そのため、新人教育で新しく育てるよりは、すでに仕事のできる優秀な人材を引き抜いた方が効率も良くコストもかからないからです。
しかし、引き抜きによるトラブルも実際に、たくさんあります。引き抜きによる転職のトラブルは法律が絡んで、大きな問題になりかねません。会社としても、しっかりと知識をつけておかなければトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。在職中の社員は、労働契約の付随義務として、会社に対して誠実義務および競業避止義務を負っています。したがって、社員が同僚に対して、競合他社への転職を勧誘して転職が実行された場合、双方が誠実義務および競業避止義務違反を問われる可能性があります。ただし、違法と判断されるためには、職業選択の自由との兼ね合いから、ある程度の規模で引き抜きが行われ、経営に悪影響が及んだこと等が条件となります。
これに関する裁判があります。

福屋不動産販売事件 大阪地裁 令和2年8月6日

  • 会社の本部長Aと店長Bは、同業他社に転職するに当たって他の従業員7名を引き抜く行為を行った。
  • 「引き抜き」のための労働条件上乗せ(現給料から10万円上げる)や300万円もの支度金を提示するなどして同業他社である転職先のために転職の勧誘を繰り返した。
  • 内部通報により上記の転職の勧誘行為が発覚し、会社は経営に与える影響は大きかったものと判断した。
  • そして、会社はAとBに対し、懲戒解雇を実施したが、AとBは懲戒解雇を無効とした主張を起こし、裁判となった。

そして、裁判所は以下の判断を下しました。

  • A、Bの行為は、単なる転職の勧誘にとどまるものではない。
  • 行為そのものは、社会的相当性を欠く態様で行われたものである。
  • また、A、Bがまもなく退職を予定していたことも考えると、解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる。

この裁判を詳しくみていきましょう。
まず、裁判で「転職勧誘が違法になる場合とならない場合」があります。たとえ就業規則や契約で競業行為が禁止されていても、同僚に対する転職勧誘は原則として適法であると考えられます。それは、憲法22条によって、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由が保障されていることからです。しかし、同僚等への転職勧誘が違法とされる場合があるのです。事例の裁判でも、結論は「勧誘は違法」と判断されています。
一般論として個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないから、単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえません。したがって、転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても、行為を直ちに雇用契約上の誠実義務に違反したと評価できないのです。しかしながら、その場合でも、退職時期を考慮し、あるいは事前の予告を行う等、会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきです。
これをしないで、会社に内密に移籍の計画を立て一斉、かつ、大量に従業員を引き抜く等、引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え、社会的相当性を逸脱して行われた場合には、違法となるのです。そして、雇用契約上の誠実義務に違反したものとして、債務不履行あるいは不法行為責任を負うことになります。